「社会のジレンマを突破する」日本初のステーブルコイン発行ライセンス取得、JPYC岡部典孝氏が語る|独占インタビュー
2025年、日本の暗号資産業界に大きな転換点が訪れた。JPYC株式会社が金融庁から日本初となる日本円建てステーブルコイン発行のライセンスを取得し、注目を集めている。
法改正から2年以上、発行体が現れていなかった状況が続いていた。同社は手数料無料・24時間365日の利用を掲げ、発行目標として3年後に10兆円という数字を示している。スタートアップ企業によるライセンス取得は、業界全体にとっても大きな意味を持つ。
CoinPostでは今回、JPYC代表取締役の岡部典孝氏に、ライセンス取得の意義、100万円制限の実態、プログラマブルマネーがもたらす金融革命について話を伺った。
金融庁、財務局から日本初のステーブルコイン発行ライセンスを取得し、金融機関となりました。法改正から2年以上、発行体が現れなかった中、スタートアップである我々が第一号となったことは、業界全体にとって大きな意味があります。
ステーブルコインの発行は大手金融機関が先行すると思われていました。スタートアップ出身の金融機関が初めてのライセンスを取得したことで、責任の重さと覚悟が問われています。光栄である反面、身が引き締まる思いです。
振り返ってみると、スタートアップや非金融機関が目指すライセンスではありません。金融機関でも、銀行をもう1個作るぐらい厳しい審査があります。
普通のスタートアップや事業会社には、発行を目指すよりも、ステーブルコインを使って既存ビジネスを革新することに注力することを勧めます。
ブロックチェーンは24時間365日動いているのが当たり前の世界です。銀行は営業日が法律で定められているため、営業時間を変えられません。海外送金では店舗で書類を書く必要がありますが、ステーブルコインなら自分のウォレットがあれば、いつでも送金できます。
100万円制限は誤解が多い規制です。第二種資金移動業の規制で、100万円を超えたら銀行預金に戻すという内容です。セルフウォレット(ノンカストディアルウォレット)に移した場合は適用されません。金融庁の規制緩和により、セルフウォレットに1億円入っていれば、他の人に1億円送ることができます。
顧客にとって必要なのはマイナンバーカードと銀行口座のみです。一方で我々は振り込まれた資金の101%を3営業日以内に法務局に供託する必要がありますが、日本円では無利子となるため、日本国債で預けることを想定しています。国債は日銀に預け入れることで法務局の供託として認められます。迅速な償還に対応するため、信託銀行も活用しています。
以下の図は JPYC側 の発行における資金フローをまとめたものである。
メリット・デメリットがあるため、お客様が選択することになります。従来、取引所では預けるのが原則でしたが、DeFiで使うなら自分でウォレットに入れておく必要があります。このニーズに応えることを最初のターゲットにしています。
セルフウォレットを使える方がJPYCの最初の利用者像です。24時間365日、自分で財産を移動・管理できるメリットがある一方、鍵の管理を誤ると資産を失うリスクがあります。適切な使い分けが必要です。
ウォレットのセキュリティレベルは様々です。悪意のあるウォレットが存在する可能性もある一方、世界中で普及しているウォレットは一定のセキュリティが確保されています。我々はWalletConnect規格に対応したウォレットと接続可能な設計にしており、ウォレットの選択と管理はお客様の責任でお願いしています。
オープンソースでSDKを提供しており、USDCと同じ規格です。簡単な送金プログラムなら数行で実装できます。AIの活用により、エンジニア以外でも簡単なプログラムを作成できる時代になりました。
銀行システムへの接続は一般事業者には困難でしたが、ステーブルコインにより、スタートアップや個人事業主でもプログラムを活用できるようになりました。これは革命的な変化です。
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オープンソースで開発しているため、誰でも改造や配布が可能なライセンスです。9月のEDCON 2025では、開発者向けにReact SDKを活用したステーブルコインアプリケーション開発のハンズオンセミナーを実施予定です。好評であれば各地で展開していきます。
ステーブルコインの需要は投資と決済に大別されます。最初は投資系の需要が先行すると考えています。決済は相手の店やサービスがJPYCを受け取る必要がありますが、資産運用なら利用者単独で完結するためです。
特にファミリーオフィス、クリプトトレーダー、ヘッジファンドなどリテラシーの高い層から強い需要を感じています。彼らが得意とするキャリートレード(低金利で借りて高利回りで運用)でJPYCを活用したいという要望が多く寄せられています。
現在、国債の最大の買い手である日銀は年間約20兆円を購入しています。仮に我々が100兆円規模に達し、その8割を国債で運用すれば、年間80兆円の国債購入となり、日銀の4倍の規模になります。
JPYCの特徴は海外での利用可能性です。海外でJPYCが使われる場合、保有者は海外にいても、裏付け資産としてJPYC名義で日本国債を購入・日銀に預け入れることになります。これは民間主導であり、融資や他の債券購入に資金が分散する銀行とは異なります。
我々は規制上、資産の大部分を国債で保有する必要があるため、JPYCの需要が直接国債需要に転換されます。これが従来の金融機関との大きな違いです。国債需要の増加により金利が安定し、事業者の資金調達コストや住宅ローン金利の低下につながることが期待されます。
第一種資金移動業の取得により100万円制限を撤廃し、貿易決済や資産運用での利用拡大を目指します。電子決済手段等取引業では、三菱UFJ信託と組んだJPYC Trustや、株主であるサークルのUSDCの取扱いを計画しています。
海外展開も進めており、海外の取引所や銀行でJPYCを現地通貨に交換できるようにすることで、貿易での利用を促進します。日本のステーブルコイン規制は世界的にもバランスが良く、将来的にはアジア各国のステーブルコインを日本法に基づいて発行することも構想しています。
インタビューの最後に、岡部氏は暗号資産(仮想通貨)メディア「CoinPost」との結びつきについて語った。
WebXの開催会場「ザ・プリンス パークタワー東京」の近くにある芝公園のオフィスで、両社は2年間にわたって同じ拠点を共にし、ステーブルコインの必要性や将来性について数多くの議論を重ねてきた経緯があった。JPYCの初代COO(最高執行責任者)が、CoinPostの記事を読んで求人応募してきたという逸話もあるという。
日本初のステーブルコイン発行ライセンスを取得したJPYC。「社会のジレンマを突破する」というミッションを掲げ、金融システムの根本的な変革に挑む同社にとって、あらたな挑戦が始まろうとしている。
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