バイナンス共同創業者のチャンポン・ジャオ氏(通称CZ)は3日、ポッドキャスト番組「Talking Tokens」に出演し、10月29日に発生した約63億ドル(1兆円)規模のハッキング事件について、事件後初めてのインタビューで言及した。インタビューの中で同氏は、事件発生時の対応から、AIがもたらす脅威や業界全体での協調の必要性などについて独自の見解を示した。
事件発生当時、CZ氏はアラブ首長国連邦(UAE)にいた。真夜中近くにXを見ていたところ、チームからの緊急連絡で攻撃を知ったという。「最初は本物かどうか確信が持てなかった」と振り返る。その後は、被害の封じ込めとユーザーのパニック防止を同時に進めたと説明した。
CZ氏は現在、バイナンスの日常的な経営から退いている。事件後は主に自身のSNSで、迅速で透明性の高い情報発信に努めたという。発生直後に「ユーザー資金は安全で、損失はバイナンスが全額補償する」と表明したことが、市場の動揺の連鎖を抑えるのに役立ったとみている。
最大の教訓を問われると、「セキュリティ対策において、決して油断してはならない」と答えた。長期間にわたり問題なく企業運営ができていると警戒心が薄れ、小さな異常を見逃しやすくなる。事前に十分な努力と注意を払っていれば「ハッキング攻撃を防ぐことは可能だ」と同氏は考えている。
CZ氏が強調したのが、AIの進化によるサイバー攻撃の高度化だ。AIの性能が上がるにつれ、仮想通貨業界への攻撃は増えている。以前は「数ヶ月に1回」だった攻撃が今は「週単位」になり、さらには「1日で4件」に上るという。
今後も攻撃は増えるとみており、「怪物に対抗するには、こちらも怪物にならざるを得ない」と語った。防御側も高度なAIモデルを大規模に活用し、攻撃を自動的に検知・防止する仕組みを作るべきだという。
現状では、AI業界や大手テクノロジー企業でさえ、ハッカーに先回りして防御ツールを導入する体制を確立できていない。ただしCZ氏は、これは「解決可能な技術的課題」だと語る。最先端のAIプロバイダーとの深く連携しつつ、仮想通貨業界全体で早期にセキュリティ防御連合をつくるよう強く呼びかけている。
具体策として挙げたのは、主要な取引所やプロトコルが過去の攻撃事例や防御に関する知見を共有すること、コードを相互に監査すること、オンチェーンで異常を検知した際に複数のプラットフォームがすぐに資金を凍結できる仕組みを作ることだ。
同氏は、こうした連携は予想よりも早く実現する可能性があるとの見方を示し、自身も形成に貢献したいと述べた。
米連邦捜査局(FBI)は10月31日、バイナンスから約63億ドルの資金が流出したハッキング事件について、北朝鮮が関与したと発表した。
CZ氏は、今回の事件は単一企業のセキュリティ問題にとどまらず、国家安全保障や世界的な金融システムにも影響すると語った。
仮想通貨業界では、トークン化株式、現実資産(RWA)、米国債を裏付けとするステーブルコインなど、実体経済との結びつきが急速に強まっている。そのため、仮想通貨企業への攻撃が金融システム全体に波及する恐れがあるという。被害規模や影響の大きさを考えれば、国家安全保障の観点から評価すべき問題だとも述べた。
同氏の業界全体へのメッセージは「技術進歩のスピードを強く認識すること」だ。 「AIの指数関数的な進歩は、通常の人間の認知能力をはるかに超えている」のに、仮想通貨業界のセキュリティ投資は著しく不足していると批判した。優秀なセキュリティエンジニアの採用、最先端のAI監査ツールの導入、専門的なセキュリティ機関との連携に、コストを惜しまず投資して欲しいと呼びかけた。
量子コンピュータの脅威が現実になる前に、ブロックチェーンはAIを活用した防御能力を進化させる必要があるとCZ氏は指摘する。一方で長期的には、今回の事件が仮想通貨業界のセキュリティ投資を促すきっかけになると考えている。


