イーサリアムの開発者コミュニティは、2027年の実施を目指す次期大型アップグレード「Hegotá(ヘゴタ)」をめぐり、66件のイーサリアム改善提案(EIP)の絞り込みを進めている。今後数回のコア開発者会議を通じて、2027年のリリースに向けて現実的に実装・テスト可能な EIPに絞り込まれていく。現時点で採用が決まっているのは、取引の検閲耐性を強化する「FOCIL(EIP-7805)」だ。
イーサリアム財団の研究者トニー・ヴァールシュテッター(Toni Wahrstätter)氏は、FOCILとともに、プライバシー機能を支える基盤となる「Frame Transactions(EIP-8141)」を採用すべきだと主張している。
EIP-8141は、従来の固定的なトランザクション構造よりも柔軟に、取引の検証や実行、手数料の支払い方法などを定義できる新たな形式を導入する提案だ。現在のイーサリアムにおける一律の仕組みではなく、トランザクションを複数の「フレーム(frame)」に分解し、フレーム単位でアカウントごとに柔軟な処理を構成可能にする。
たとえば、ユーザーに代わって他者が手数料を負担したり、複数のアクションを一つの取引にまとめたり、暗号形式を変更してもアドレスを変えずにトランザクションを実行することなどだ。
これにより、これまでプライバシーを求めるユーザーが利用してきたPrivacy PoolsやRailgunなどのアプリが、外部のリレイヤー(中継サービス)への依存を減らし、プロトコル上で自ら手数料を負担できるようになる可能性がある。
ユーザーが自身のアドレスから直接ガス代を支払う必要がなくなれば、ガス代の支払いを通じて取引とユーザーのウォレットを結び付ける情報を減らすことができる。
イーサリアムは誰でも残高や取引履歴を確認できる公開型ブロックチェーンだ。この透明性は利点である半面、企業の財務管理や大口投資家の取引では、送金先を伏せたいというニーズも根強い。
ヴァールシュテッター氏は、Frame TransactionsをKeyed Nonces(EIP-8250)やRecent Roots(EIP-8272)と組み合わせることで、プール自体が手数料を支払える「プライバシープール」が実現し、仲介者が不要になると指摘。さらにFOCILのサポートを組み合わせれば、プライバシー取引に対しても、プロトコルレベルでブロックへの採用が保証されるとの見解を示した。
Frame Transactions(EIP-8141)に関連する2つの提案、Keyed Nonces(EIP-8250)と、Recent Roots(EIP-8272)は、多数のユーザーが同一アカウントを通じてプライバシー取引を行う際に生じる問題に対処するものだ。
EIP-8250は、トランザクションが単一のカウンター(ノンス)で待機するのではなく、個別のカウンターを使用できるようにする。これにより、遅延したトランザクションが後続のすべてのトランザクションの処理を妨げることを防ぐ。
一方、EIP-8272は、トランザクションが待機中に変化する可能性のある情報を直接参照するのではなく、最近の暗号学的な記録を参照して、自身の正当性を証明できるようにする提案。ヴァールシュテッター氏は、これら3つのEIPを組み合わせることで、プライバシーアプリが現在必要としている外部の仲介インフラへの依存を減らせると主張している。
今回のヘゴタをめぐる議論は、イーサリアムが、スケーリングだけでなく、プライバシーや検閲耐性、セキュリティを含む基盤機能の強化に重点を置いていることの表れだ。
イーサリアム共同創設者のヴィタリック・ブテリン氏も、近年はプライバシーを同ネットワークの重要な開発テーマの一つとして掲げている。同氏は8月10日、自身が2023年に作成したロードマップ図を更新し、量子耐性とプライバシー、安全性、検閲耐性を「最優先の目標」として位置づける方向性を示した。
今回の一連の提案には、このような長期的ビジョンの再定義が反映されている。これらの提案が採用されても、イーサリアム自体が匿名化するわけではなく、通常のETH送金の透明性はこれまで通り維持される。焦点はあくまで、プライバシーを求めるアプリケーションが、外部インフラへの依存を減らし、必要な機能を実現できるかどうかにある。
