ステーブルコインのUSDCを発行しているCircleが Arc Network上でのトークン発行を検討している 、というニュースがありました。
PANewsによると、4月14日にソウルで開催されたオフラインイベントで、CEOのJeremy Allaire氏がこの点に触れたとのことです。
この手の話自体はここしばらく断続的に出ていましたが、今回はガバナンス設計やインセンティブ設計、さらには経済的な整合性といった踏み込んだ論点に言及している点がやや印象的です。
加えて、将来的にProof-of-Stake(PoS)への移行も視野に入れているとのことで、「検討段階」ではあるものの、単なる構想以上の温度感は感じられます。
とはいえ、仕様レベルの情報はほとんど出ていないため、この段階で評価を固めるのはまだ難しいところです。 続報待ち、というのが正直なところです。
Arc Network(Circle)の位置づけ
Arc Networkは、Circleが開発を進めているステーブルコイン特化型のLayer-1です。
「インターネットのOS」という表現が使われていますが、実際の設計思想を見る限り、個人ユーザーというよりは企業・機関向けのインフラに軸足を置いているように見えます。
特徴として挙げられるポイントはいくつかあります。
まずはUSDCをネイティブガスとして扱える点。
これはシンプルですが重要で、手数料がドル建てで安定するため、特に企業側のコスト管理という観点では扱いやすさがあります。
そしてファイナリティの速度の速さ(平均0.5秒程度)
このあたりの数値はネットワーク状況や条件次第で変動するため、そのまま鵜呑みにする必要はありませんが、方向性としては「決済用途を強く意識している」ことが感じられます。
EVM互換である点も、今の開発環境を前提にすると外せない要素です。
既存のツールや資産が流用できるかどうかは、初期のエコシステム形成にかなり影響します。
加えて、 監査対応可能なプライバシー構造 や、Circleの既存インフラ(USDC、CCTPなど)との統合も含め、全体としては「規制と実用の両立」を強く意識した構成に見えます。
2025年10月に開始されたパブリックテストネットでは、最初の90日で1億5千万件以上のトランザクション、約150万ウォレットという数字が出ていたことが同社より発表されています。
この手の初期指標は解釈が難しい部分もありますが、少なくとも開発者・参加者の関心が一定程度集まっているのは確かでしょう。
メインネットは2026年予定と発表されています。
他のステーブルコイン特化L1の動き
Arc Networkだけでなく、他にも様々なステーブルコイン特化のL1が立ち上げられています。それぞれの特徴を簡単にまとめます。
Tempo(Stripe × Paradigm)
決済第一の設計で、思想的にはかなりStripeらしさがあります。
企業間決済やEC、クロスボーダー送金といったユースケースを明確に取りに行っている印象です。
スペックとしては、100,000 TPS超、ファイナリティ0.5秒、さらに複数ステーブルコインでのガス支払い対応など、強気な設計になっています。
VisaやShopify、Nubankなどがdesign partnerに入っている点も含め、「実験」ではなく「実運用」を前提にしているプロジェクトと言えそうです。
現在はパブリックトライアル段階で、メインネットは2026年を予定しています。
Plasma(Tether / Bitfinex)
こちらはUSDTベースの決済インフラとしてのL1です。
ファイナリティ1秒未満、EVM互換に加え、Bitcoinをセキュリティレイヤーとして活用する設計が特徴的です。
また、Paymasterによるガスレス送金(USDT払い)は、ユーザー体験の面ではかなり効いてきそうな要素です。
2025年9月にメインネットβとトークンが公開されており、「すでに動いている」という意味では一歩先に進んでいます。
一方で、その分リスク評価が定まっていない部分もあり、市場の見方はやや分かれている印象です。
Stable(Tether系)
同じくTether系ですが、Plasmaとは少し方向性が異なります。
こちらはUSDT0をネイティブガスに据えた設計で、よりストレートに「決済最適化」に寄せています。
手数料の安定性とシンプルさを優先している構成と言えます。
2025年12月にメインネットが立ち上がり、2026年2月のアップデートでUSDT0の正式ガス化が行われています。
Plasmaとの棲み分けは現時点ではやや曖昧で、今後のユースケースの分化が焦点になりそうです。
既存チェーンとの関係
これまでステーブルコインの主戦場は、TronやSolana、Ethereum(およびL2)といった汎用チェーンでした。
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Tron:低コストでUSDT送金に強み
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Solana:高速処理で取引量が拡大
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Ethereum + L2:信頼性とDeFiエコシステム
これらと比べたとき、ArcやTempoなどの専用チェーンは、
ステーブルコイン利用を前提に最初から設計されている
という点が決定的な違いです。
結果として
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ガスをUSDCやUSDTで直接支払える
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あるいはガスの存在自体を意識しなくてよい
といった、ユーザー体験のシンプルさは明確に改善されています。
ただし、既存チェーンが持つ流動性やエコシステムの厚みは依然として大きく、短期的に置き換わるというよりは、用途ごとの使い分けに落ち着く可能性が高そうです。
まとめ
2026年時点で、ステーブルコインの総供給額は約3,200億ドル規模に達しています。この規模を考えると、発行体が自前のインフラを持とうとする流れ自体は、むしろ自然な展開とも言えます。
Arc Networkにおけるトークン発行の検討も、その延長線上に位置づけるのが妥当でしょう。ユーザー視点では、手数料の分かりやすさや運用のしやすさといった点で選択肢が広がっているのは確かにプラスです。
一方で、「どのチェーンが実際に使われるのか」という点については、まだ評価が固まる段階にはありません。
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流動性(TVL)がどこに集まるか
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手数料の安定性がどこまで維持されるか
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企業がどの基盤を本番採用するか
といった要素を見ていく必要があるかなと考えます。
現状はちょうど過渡期にあたり、各プレイヤーの戦略が出揃いつつある段階、という理解が近そうです。
現在の各社の発表を見ていると決済用途は専用チェーン、DeFi活用は既存チェーンという進化が進むのではないか、と個人的には考えます。全部が置き換わるというよりそれぞれの強みを活かした共存の形に落ち着く気がしています。
*本レポートは投資勧誘を目的としたものではありません。暗号資産取引には価格変動リスク等が伴います。取引はご自身の判断と責任でお願いいたします。