2025年1月20日、米証券取引委員会(SEC)のゲーリー・ゲンスラー委員長が退任した。同氏の在任期間中、SECは仮想通貨業界に対して厳格な執行姿勢を取り、多数の訴訟を提起していた。Cornerstone Researchの調査によると、ゲンスラー体制の3年半(2021年4月17日〜2025年1月20日)で、仮想通貨関連企業に対する法的措置の執行件数は125件、罰金総額は60億ドル(約9,476億円)を突破した。Blockchain Associationはこの間、業界が4億ドル(約632億円)以上の弁護士費用を払ったと推計している。
ゲンスラー氏は、ビットコインについてはコモディティ(商品)と認める一方で、それ以外のほぼ全ての仮想通貨が証券に該当するとの主張を貫いた。その判断にあたっては、既存の証券法に基づく1946年の判例で用いられた「ハウィー・テスト」を適用し、訴訟の根拠としてきた。加えて、仮想通貨企業にSECへの登録を促していたものの、実務上機能する窓口はなく、具体的で明確な規制ガイドラインも示されなかった。
同氏の規制アプローチは、明確なルールがなく、訴訟・執行で業界を締め付ける「執行を通じた規制」であるとして、強く批判された。このような規制の不確実性やイノベーション抑制への対抗策として、業界は2024年の大統領選に向けて、業界支援の政治活動委員会(PAC)に資金を投入し、仮想通貨支持を表明していたトランプ大統領の再選を後押しした。
トランプ政権への移行に伴い、ゲンスラー氏は本来の2026年までの任期を全うせず、2025年1月20日の新政権発足日に退任した。
「米国を仮想通貨の首都にする」というトランプ大統領の公約を背景に、SECは異例の速さで政策を180度転換。不透明な訴訟を整理し、世界をリードする規制環境の整備へと舵を切った。
ゲンスラー体制下で提起された多数の仮想通貨企業への訴訟は、新体制による規制方針の抜本的転換を受け、次々に取り下げや撤回、和解へとつながった。
大手仮想通貨取引所コインベースに対する訴訟で、SECは「現在進行中のクリプト・タスクフォースによるルール策定作業を優先する」として、裁判の継続を断念した。
仮想通貨史上最大であり、5年近く続き大きな注目を集めたリップル社との訴訟では、2024年8月に裁判所が1億2,500万ドル(約198億円)の民事制裁金を命じた。その後、2025年5月の和解案では、リップル社が5,000万ドル(約72億円)をSECに支払い、残りの7,500万ドルはリップル社に返還されることで合意した。
そのほか、ユニスワップラボやロビンフッド・クリプトなどに対する調査やWells Notice(ウェルズ通知)による訴訟予告なども取り下げられた。
トランプ大統領が指名し、2025年4月にSEC委員長に就任したポール・アトキンズ氏は、就任演説で「SECの本来の使命である投資家保護への回帰」を強調し、前政権の「執行による規制」から脱却し、明確なルール作りを優先する姿勢を鮮明にした。
同年6月には、規制方針の大幅な転換を表明。これを受けてSECはゲンスラー時代の分散型金融(DeFi)と仮想通貨カストディに関する規制強化案を正式に撤回した。
2025年11月に発表されたSECの執行活動報告書では、2025年会計年度のSECによる執行措置件数は、前年度から3割減少したとされ、SEC委員長交代に伴う執行活動の低下を裏付ける形となった。
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2025年7月、アトキンス委員長はSECの最優先課題として「Project Crypto」を立ち上げ、仮想通貨規制の包括的な改革が開始された。これは「トークン分類の法文化」を公式に進めるプロジェクトで、11月にはデジタル資産を4つのカテゴリーに分類する「トークン分類制度」が具体策として公表された。
2025年末には、「イノベーション免除」制度の導入を発表。これは仮想通貨企業がSECの監督下で新規ビジネスモデルを試験できる期間限定の規制緩和措置で、完全な証券登録を行わずに実験的な事業展開を可能にする。2026年1月末までの導入を目指している。
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