「ガス代ゼロで金融の自由を」TRON創設者が語る、ステーブルコイン普及戦略と中国香港展開|独占インタビュー
TRONは2025年、ステーブルコイン送金のガス代を実質無料化する「GasFree」技術を本格展開し、分散型資産の大衆化に向けた一歩を踏み出した。
現在、USDT流通量の半分以上がTRON上で扱われ、世界最大規模のステーブルコインネットワークとして活躍する同プラットフォームは、中国香港を拠点にアジア太平洋地域での事業拡大を加速させている。
創設者のJustin Sun氏を独占取材。ガス代無料化技術の競争優位性、不正取引やマネーロンダリングに使用された暗号資産2.5億ドル超の凍結を実現した「T3+イニシアチブ」、そして中国香港を中心としたアジア戦略について話を伺った。
Justin Sun氏はブロックチェーンプラットフォーム「TRON」の創設者であり、カリブ諸島の島国であるグレナダのWTO大使および前常任代表を務める。
世界最大級のブロックチェーンDAOエコシステムの一つであるTRONを創設し、世界80億人すべての人々に金融の自由をもたらすことをミッションに掲げる。アリババ創業者ジャック・マー氏の薫陶を受け、Forbes「30 Under 30」のコンシューマーテクノロジー部門に複数回選出されるなど、国際的な評価を受けている。
GasFreeの導入は、本質的にユーザー体験の革新だと考えています。これにより、ユーザーはステーブルコインを送金する際にわざわざガス代を用意する必要がなくなり、参入のハードルが大幅に下がります。
結果として、ステーブルコインを送ることが、まるでインスタントメッセージを送信するかのように、自然でスムーズな行為になります。この「摩擦ゼロ」の体験は、新興市場や国際送金において特に大きな普及効果をもたらすと確信しています。
TRONの強みは、すでに世界最大のステーブルコインネットワークを構築している点です。現在、USDT流通量の半分以上がTRON上で扱われており、日々膨大な取引が私たちのチェーン上で実行されています。こうした巨大なエコシステムの上にGasFreeを導入することで、即座にスケール効果を発揮し、TRONのグローバル市場におけるリーダーシップをさらに強固なものにできます。
また、他のブロックチェーンとの決定的な違いは、そのリソースモデルの設計思想にあります。多くのプロジェクトが短期的な補助金や外部インセンティブに依存しているのに対し、TRONは帯域幅とエネルギーの再生可能な仕組みによってGasFreeを実現しています。
これにより、長期的な持続可能性と経済合理性が担保され、ユーザー・開発者・エコシステムパートナーの皆様は、補助金が尽きることを心配することなく、安定的で透明性の高い環境を享受できるのです。
したがって、GasFreeはTRONにとってのブレークスルーであるだけでなく、ステーブルコイン普及のための新たな業界パラダイムとなり、分散型資産が真に一般ユーザーに広がっていく大きな一歩になると考えています。
「T3+イニシアチブ」は、TRONがグローバルなステーブルコインエコシステムにおいて踏み出した重要な一歩です。このリアルタイム監視と対応の仕組みにより、これまでに2.5億ドルを超える犯罪関連資産の凍結に成功しました。これは、ブロックチェーンがコンプライアンスとセキュリティの分野において透明性・効率性・追跡可能性を兼ね備えた強力なツールであることを証明しています。
この取り組みはTRON自身のコンプライアンス水準を高めるだけでなく、業界全体に「ステーブルコインは規制の空白地帯ではない」という新しい基準を提示しました。むしろ、適切な枠組みの中で、安全で信頼性の高い金融サービスを提供できるのです。長期的には、ステーブルコインのグローバルなコンプライアンス化とメインストリーム化を推し進め、金融機関や規制当局からの信頼をさらに得ることにつながるでしょう。
そして、このプロセスを進める上で、取引所の皆様は我々にとって不可欠なパートナーです。Binanceをはじめとする世界的なプラットフォームとの協力関係は、単なる技術連携にとどまらず、共にコンプライアンス・安全性・持続可能性を備えた産業エコシステムを築き上げるものです。今後はチェーン上の監視やリスク管理メカニズムを共有することで防御力を高めると同時に、ステーブルコイン清算やクロスチェーン送金といった分野でも連携を深め、ユーザーに利便性と安全性を兼ね備えた金融サービスを提供していきます。
「T3+」は単なる技術革新ではないです。これは、世界的なコンプライアンスの潮流に対し、TRONがいかに真摯に向き合っているかという姿勢の表れです。取引所パートナーの皆様と緊密に連携することで、業界全体をより透明で信頼性の高い方向へと導いていけると考えています。
中国香港の規制環境は、近年オープンで包容力のある姿勢を示しており、特に仮想資産やWeb3に関する政策においては、国際金融センターとしてのコンプライアンス基準を維持しながらも、積極的にイノベーションを取り入れています。
このように明確で安定した規制フレームワークは業界全体にとってプラスであり、より多くの機関やユーザーを市場に引き込む力になると考えています。
TRONにとって中国香港が魅力的な理由は、大きく二つあります。
まず一つは、政策と市場が密接に結びついている点です。中国香港はアジアの金融ハブとして強力な金融エコシステムと国際的な影響力を持ち、ステーブルコインや国際送金の試験場として最適なポジションにあります。そしてもう一つは、Web3に対する前向きな雰囲気です。香港特別行政区政府は業界との協力に積極的で、オンチェーン金融やDeFiなどの実用化にとって非常に良好な環境を整えています。
もちろん、規制遵守に伴うコストの高さや厳格な要件は課題となりますが、これはWeb3が持続的に発展していくために不可欠な前向きなプレッシャーだと捉えています。コンプライアンスと透明性こそが長期的な成長の基盤だからです。
中国香港におけるTRONの戦略的な位置付けについてですが、私たちはここをステーブルコインの応用や国際送金における成功事例を広めていくための戦略的拠点と捉えています。まずは香港のローカル市場で、応用モデルやビジネスモデルの参考となる成功事例をつくり、その影響をアジア、さらには世界へ広げていきたいと考えています。
また、TRONは高速かつ低コストなネットワークを強みに、香港がWeb3時代において「金融」と「テクノロジー」の両面でその力を発揮できるよう、いつでも貢献できる体制を整えています。
GasFreeの導入は、ブロックチェーンを「一部の人だけが使う高コストな技術」から、「誰もがその恩恵を受けられる、普遍的な金融インフラ」へと変える、長期的な潮流を推進するものです。ステーブルコイン決済を真の意味で「ゼロ摩擦・ゼロ参入障壁」にすることで、分散型資産の世界的な普及を加速させると考えています。
中国香港は規制面での優位性と国際金融センターとしての地位を兼ね備えており、クロスボーダー決済やWeb3イノベーションにとって理想的な拠点だと考えています。私たちは、すでにTRONが構築している世界最大級のステーブルコインネットワークを活かし、香港が世界有数のWeb3金融ハブとして発展できるよう、常に支援する準備を整えています。
アジア太平洋地域の暗号資産エコシステムは、今まさに「政策の明確化」と「実用化の加速」が同時に進む、非常に重要な転換点を迎えています。
中国香港はステーブルコインを突破口としてコンプライアンスとイノベーションの融合を模索し、日本は成熟した制度設計に基づきステーブルコインやWeb3の法整備で先行しています。中国本土もデジタル人民元やブロックチェーン応用を通じ、将来の基盤を静かに築いています。
共通するのは人口規模の大きさ、多様な決済シーン、旺盛なクロスボーダー需要であり、これらが組み合わさることでステーブルコインは最も有望なアプリケーションの一つとなっています。
一方で、米国が最近示しているビットコインなど暗号資産に対する積極的な政策からは、世界のデジタル資産競争で主導権を握ろうとする戦略的な意図が見えてきます。米国の強みは資本市場や規制制度が世界に与える影響力にありますが、それに対してアジア太平洋の強みは、実際の支払い需要やユーザー基盤の大きさにあると考えています。
この違いにより、両者の規制アプローチはゼロサム的な競争ではなく、地域ごとの競争と補完関係のような構図を生み出しています。制度や資本の面では米国が先行しているかもしれませんが、アジア太平洋は応用の実装やユーザー規模の点で、より大きな優位性を発揮していくと思います。
TRONの短期的な目標は、ステーブルコインおよびクロスボーダー決済分野におけるリーダーシップをさらに強化することです。
そのために、まずユーザー体験を徹底的に磨き上げ、参入ハードルを下げる革新的な仕組みを次々と導入していきます。また、中国香港をはじめとする主要市場の規制に積極的に対応し、コンプライアンスの枠組みの中でステーブルコインの実用化を推進します。
同時に、グローバルな金融機関やWeb3企業とのパートナーシップをさらに拡大し、決済・送金・DeFiといった実需の場面でTRONの存在感を拡大していきます。
一方で長期的なビジョンとして、TRONはグローバルな分散型金融インフラの中核ネットワークとなることを目指しています。私たちのビジョンは、TRON上のステーブルコインが「デジタル・ドル」として機能し、誰もが低コストで国際金融に参加できる世界を実現することです。
そのためにアジア太平洋・欧州・北米での展開を進め、コンプライアンス・性能・エコシステム多様性の面で進化を続けます。TRONは単なるブロックチェーンにとどまらず、デジタル金融と実体経済を結ぶ架け橋になると信じています。
Tron Inc.が採用した「TRX Treasury Strategy」の目的は、暗号資産やその基盤となるブロックチェーンアプリケーションを会社として保有し、投資することで、株主の皆様に全く新しい投資収益の機会を創出することにあります。
まず、TRONは数あるグローバルなパブリックチェーンの中でもトップクラスの存在であり、その膨大なユーザーベース、高性能、そして低コストという強みから、業界における決済ネットワークの「第一選択肢」としての地位を確立しています。
TRONのネイティブトークンであるTRXは、この強力なエコシステムと豊富なDAppという追い風を受け、その価値をさらに高めていく大きなポテンシャルを持っています。現在、Tron Inc.が保有するTRX準備資産はJustLendでステーキングされており、投資家の皆様の収益を最適化しています。
同時に、私たちはTron Inc.がナスダック上場企業であるからこそ、伝統金融とブロックチェーンの融合を、よりコンプライアンスに準拠した、透明性の高い形で社会に示すことができると信じています。
一方では、TRX準備資産の価値向上を上場企業のチームが責任を持って管理し、リスクコントロールを行うことで、投資家の皆様に暗号資産への「コンプライアンスに準拠した投資機会」を提供します。
そしてもう一方では、Tron Inc.がナスダックの成熟した監督基準や財務報告基準を遵守することで、投資家の皆様がTRXとTRONブロックチェーンへの理解と信頼を深め、TRONエコシステム全体のさらなる繁栄に繋がっていくと考えています。
そして何より、ナスダック上場企業であるTron Inc.がTRXをその準備資産に加えたことは、TRONブロックチェーンの急成長における極めて重要なマイルストーンです。これは、TRONが新たな姿で世界の資本市場に登場し、より広大な成長のステージへと踏み出したことを意味します。
現在、BTCやETHが再び高値を目指す市場環境の中、暗号資産への投資意識はかつてなく高まっています。ブロックチェーンという常に成長を続けるこの分野において、私たちは自らの戦略と技術力に絶対の自信を持っています。
Tron Inc.および「TRX Treasury Strategy」が、着実かつ長期的な視点に立った選択肢として、一般の皆様や投資家の方々に新たな資産配分の道を示すことができると確信しています。
関連: ジャスティン・サン、宇宙飛行を経てWebXで語るTRONの未来戦略|WebX2025
関連 : トロン(TRX)を取り扱う国内取引所比較

コインチェックグループ、仏Aplo買収で機関投資家向け事業を強化
コインチェックグループが仏Aplo買収を発表。欧州進出の第一弾として機関投資家向け事業を強化し、流動性やB2B2C展開を拡大へ。...

暗号資産制度に関する第二回「金融審議会」、有識者の委員らが議論交わす
金融庁は9月2日の審議会で暗号資産規制を金商法に移行する方針を示した。資金調達型と非資金調達型の2類型に分類し、詐欺的勧誘への対応強化と発行者の情報開示義務化を検討。業界団体は実質的支配に基づく判定基...

エルサルバドル、ビットコイン準備金を複数のアドレスに移管 量子リスクに備える
エルサルバドルは、ビットコイン準備金のセキュリティ強化を目的として、従来の単一アドレスでの保管から複数の新規未使用アドレスへの分散保管に移行したと発表した。国家ビットコイン事務局は、このような措置を取...