デロイト執行役員「DeSciで日本の科学力は向上する」|独占インタビュー
2025年5月、日本の研究開発分野に新たな潮流が生まれつつある。ブロックチェーン技術を活用した分散型科学(DeSci:Decentralized Science)への関心が、大学や企業の間で急速に高まっている。海外ではVitaDAOなどの成功事例が生まれる中、日本はこの革新的なアプローチにどう向き合うべきか。
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社で先端技術担当執行役員を務める寺園知広氏に独占インタビューを実施。日本におけるDeSci実装の課題と可能性について、詳しく話を伺った。
まず大きな違いは、守備範囲が大幅に異なることです。ベンチャーがいなくても研究者がいれば、研究開発の資金調達が市場からできるという機能があるのが、特徴的な部分だと思っています。
また、資金調達金額についても、一般的な企業と大学の共同研究やクラウドファンディングと比べると、圧倒的に規模が大きいんです。グローバルで調達できることもあり、その規模の大きさが特徴となっています。
オープンという観点では、特に資金分配の透明性が重要です。調達後の資金分配プロセスが透明で分かりやすいというのは、ブロックチェーンの特徴でもありますが、この透明性が大きな違いだと思います。例えば、DAO(分散型自律組織)でトークンを発行してDAOに資金が入った後、どの研究テーマに分配するかを投票で決めるという特徴があります。
従来の科研費や企業内の研究開発費用は、どう決まったのか分からないまま分配されて、自分のところには来なかったということもありました。それに対して、合議制で透明性高く資金分配ができるのは、研究者目線で非常に良いことだという声が多く、これも大きな特徴だと思います。
研究者確保については、グローバルで人材を集めやすくなるという利点があります。トークン発行後、日本市場だけでなく海外市場でも展開することで、海外の研究者の目にも触れ、このDAOに参加したいという人が現れる可能性があります。グローバルで技術者を確保できるのは大きなメリットです。
海外ではすでに始まっていますが、日本では整理すべき制度上の課題があります。大学所属者がどこまで自由に個人活動できるかという課題です。
クロスアポイントメント制度(研究者や専門家が大学や企業など複数の機関に同時に所属し、それぞれの機関で役割や責任を果たす雇用形態 )を活用できないか議論を始めていますが、これが解決すれば可能になると思います。海外では大学在籍期間が9ヶ月程度で、休暇期間は副業可能という仕組みなどがありますが、日本は1年間通して所属するため、こうした制度面の調整が必要です。
ただし、学生や大学院生に限っては正確には大学に雇用されているわけではないので、早くチャレンジできるのではないかという声もあります。
まだ本格的な事例は立ち上がっておらず、まず第一歩を踏み出す必要があります。
デロイトとしては、まずDeSciという概念とそのメリットを広く知ってもらうことが重要だと考えています。先日のイベント(DeSci Japan Summit 2025)もその一環でした。
あるアカデミアの先生からは、DeSciを実現するためのDAO的な場、つまりDAOが立ち上がるまでの準備段階で情報共有しながら研究会を行う場があると良いという提案もありました。継続的に関心のある方々が集まり、会計面や法制度も含めてディスカッションできる場の提供が、普及への第一歩だと考えています。
企業とアカデミアでアプローチが異なります。企業側では、いきなりトークン発行というよりは、まずR&DプロセスにDAOの要素(投票によるテーマ決定など)を部分的に取り入れ、DeSciに慣れていくプロセスを経て、段階的に本格的なDeSciへ移行するアプローチが現実的だと考えています。
特に大企業がDeSciに関わる事例はまだ少ないため、日本発として大企業も参画し、ステップアップしながらDeSciに近づいていくことが重要です。
アカデミア側は、研究者の身分やIP(知的財産)の扱いなど制度上の課題が大きく、産学連携部門との合意形成が必要です。これには時間がかかると思います。
ビジネス側は段階的アプローチが有効ですが、アカデミアはどこかが先陣を切る必要があります。どこかの産学連携部門が制度も含めて改革し、成功事例を作れば、他も追随すると考えています。
筑波大学と弘前大学の共同論文によると、ノーベル賞級の革新的研究には、特定テーマに集中投資するのではなく、幅広いテーマに分散投資する必要があるとされています。しかし現在の科研費の仕組みだけでは実現が難しい状況です。
DeSciならオープンな合議制で決められ、特定の先生だけに資金が集中することを防げる可能性があります。また、欧米では新興の研究テーマが増え続けているのに対し、日本では増えていない現状があります。新領域開拓が苦手な現在の仕組みを、DeSciが改善できる可能性があります。
多くの研究者は科研費申請書の作成に膨大な労力を費やしています。スマートコントラクトを使えば契約が簡素化され、研究提案を投稿すれば投票で資金配分が決まるような仕組みも可能です。科研費以外の資金調達方法が確立すれば、長期的に科学力向上につながるでしょう。
短期的には、日本で本格的な事例を一つ立ち上げることが目標です。
長期的には、大学発ベンチャーのイノベーションプラットフォームの前段階として、ベンチャーが発生するには至らない状態の研究テーマを育てるDeSciプラットフォームを作りたいと考えています。そこで成熟したプロジェクトがベンチャーになる流れを作れば、日本のベンチャー不足も解消できるでしょう。
ニッチな分野やファンがいる研究分野なら、資金を出したい人は多いと思います。例えば、出身大学への寄付の代わりにDeSciでの投資という形で、母校への愛着を活かす仕組みも作れるのではないでしょうか。
DeSciはまだこれからの分野ですが、ご興味のある方がいらっしゃれば、一緒に盛り上げていければと思っています。
グローバルな資金調達と透明性の高い合議制について、寺園氏は日本の研究開発における新たな選択肢として提示した。同氏によれば、従来の科研費制度では困難だった多様な研究テーマへの投資や、特定の研究領域に限定されない幅広い分野への資金流入も、DeSciの仕組みを通じて実現可能になるという。
日本の研究開発における課題として、新規領域への挑戦不足、煩雑な申請プロセス、硬直的な資金配分を挙げた。これらに対しDeSciが提供する解決策として、同氏は短期的には国内初の成功事例の創出、長期的には研究テーマを育成するプラットフォーム構築という段階的アプローチを示した。
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